俺の名義の通帳

私の両親は私が5歳の時に離婚した。
親父の暴力が原因だった。母親は耐えきれなかったのだろう。きっと私をかばってくれてたのかと思う・・・。
私は親父の顔は全然、覚えてないけど殴られた事だけは覚えてたんです。

母親は親父の話をするといつも嫌な顔をしてました。
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私の20歳の誕生日の日に母親は親父の連絡先を教えてくれた。
「会うかどうかはお前に任せると」
そう言って。でも母親はあってほしくないような気がしたなーーーー。

だけど私は実際父親の顔も覚えていないし会って見てみたいなと思い、電話して会う事になって、15年ぶりに親父の顔を見た。こんな親父だったんだと・・・。
私はバカだから、何を話していいかわからなくてまず父親を見てブン殴ってしまった。

きちんと覚えてないけれども、周囲の人間の目を気にしないで、自分で殴り飛ばした親父の胸で泣いていたのだけは覚えている。
泣いてる俺の肩を掴んで、親父は一言
「お前はもっと痛かったんだよな」って。
そう言って俺が殴ったほほをさすりながら真剣な顔で俺を見ていた。

それでまた泣いたよ。

そして落ち付いた後、親父と酒を飲んだ。
どうってことないごくごく普通の居酒屋で。

今何をしてるか。
母が元気かどうか。
再婚した親父の家庭は上手く行ってるのかとか。
そんな話をしながらずっと飲んでた。帰り際に「母さんに渡しといてくれ」と言って俺に封筒を渡してきた。
帰って母に渡したが、俺はしばらくそれが何か知らなかった。

俺も今は27で、社会に出て、結婚もして、そこそこの生活はしていると思う。

最近、親父が死んだと聞いて、その時は悲しいけれど不思議と涙は出なかった。
あの時さんざん泣いたせいなのかなー、とかドライに考えてたな。
だが、
母にあの時の封筒の中身が何だったのかその時初めて聞いた。

そしたら俺名義の口座の通帳だったらしい。

一緒に酒を飲んだ時、親父は「今の家庭は上手く行ってるよ」なんて言ってたが、母に聞いたところ、再婚はせずにずっと一人で暮らしていたらしいんだ。

毎月、給料からその口座に一定額入金していたらしく、通帳には綺麗に同じ金額が並んでたんだ。
(後で記帳したら、親父が死ぬギリギリの月まで、毎月毎月入金されていた)

その話を聞いて、はじめて泣いた。
葬式では、その時よりも親父を殴ったときよりも私はもっともっと泣いていた。

親父が再婚したなんて嘘をついていた理由はわからないままだったけどさ。
ありがとう。そう素直に思った。

なんでなんで最後まで嘘をついたんだ・・・。親父。
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