炊飯器に恋をして・・・。この話は炊飯器に恋をした話です。がちな恋愛話ではありませんので。
私は一人暮らしのフリーター・・・
本日もバイトから帰ってきたところだ・・・
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そんな私には一緒に暮してる炊飯器がいる・・・
「ただいま、あぁー腹減った」・・・
「お、おかえり、本日も早かったわね、ご飯できてるわよ・・・」
「あぁ、うん」・・・
けっこう寂しがり屋のようだ・・・
「早く食べたいな・・・」
「ちょ、ちょっと、なに言ってるのよ、食べたいだなんて・・・」
「いや、ごはんをだよ」
「あ、あぁ、そうよね、そうだったわ・・・」
蒸気を出すくらい照れてる・・・
かわいい奴だ・・・
「おかわり」
「はい、ねぇ、今度どっかつれていってよ・・・」
「あぁ…」
彼女は正真正銘の炊飯器だ
そんなこいつに恋愛をしてしまっていることに気づく
「むぅ…」
「ちょ、ちょっとぉ、どうしたのよ、そんな顔しちゃって・・・」
「いや、ちょっとな・・・」
顔をみつめる・・・
「なぁ、どこいきたいんだ?」
「ええと…遊園地...行ったことないから、前から行きたいと思ってたのよ」
「あぁ、じゃあ、今度連れて行ってやるよ」
「本当ぉ~!最近いそがしそうだから、だめもとで言ってみたんだけど」
「大丈夫だって、私は体は丈夫なんだから」
無理して明るく振舞う私
次の日
「ただいま、あー、本日でやっと働きはじめて一年か」
「それはよかったじゃない、よし、じゃあ、お祝いね」
にこりとほほえむ
「おいおい、そんなのいいよ、悪るいから、普通でいいよ」
「いいじゃない、私がしたいんだから、本日は記念日ね」
「そうなのか?」
鼻歌を歌いながら料理しているのをリビングから見つめる・・・
なんであいつは炊飯器なんだろう、あんなにかわいいのに・・・
あいつがいなかったら今のようにがんばって働いてなかっただろう・・・
私は料理ができるのを待ちながら野球を見る・・・
ただ音声を聞き流していた・・・
「はい、おまたせ・・・・」
「あぁ、わるいな・・・」
おれが言うのもなんだが、本当にこいつは料理がうまい・・・
「本日はね…」
そしてなによりも会話があるのがうれしかった
本日あったことを楽しそうに語る炊飯器
「でね、そのときに…」
「うん」
その時の私は相槌をうちながらいろんなことを考えていた
はたして、彼女は私と一緒にいたいと本当におもってるのだろうか?
私が買ったというだけで、ずっと束縛していいのか?
そうして箸が止まっていると
「ねぇ?聞いてるの?」
「ん?あぁ…」
食事を終え、炊飯器は洗い物をはじめた・・・
ここでさっき思ったことを切り出す・・・
「なぁ?」
「なに?」
「本当にお前は 私と一緒にいたいと思ってるか・・・?
いやなら、はっきり言ってくれ」
「何を言っているの!そんなことあるわけないじゃない!」
「いや、ごめん…」
「変なこと言わないでよ!」
怒らせてしまった…
「いや、ごめん、そんなつもりじゃ…」
「だって、ひっく、ひっく」
泣き出す炊飯器
「あんたが私を捨てちゃうかと思ったから…」
「そんなことしないよ」
なだめるのに必死だった
やっと泣き止んだ炊飯器に私は素直に言う・・・
「ありがとうな、本日は私のために」
「うん…」
「じゃあ約束する、今度の休みに遊園地に連れて行くよ」
「ほんと?」
急に声が明るくなった・・・
次の日
「ただいま」
「おかえり」
よかった、いつもの声だ、昨日のことはもう気にしてないようだ
食後
リビングで色々と考えていると、炊飯器が私のそばに寄ってきた
「ん?どうした?」
すると、炊飯器はいきなり私にくちづけをした・・・
「!!!」
一瞬時が止まる
突然のキス
オレは動揺した・・・
「どうだった?ファーストキスよ」
「あ、いや…」
私たちの関係は、なにかが変わろうとしていた
次の日、バイト先でのこと
「あ、君」
「なんですか、お店長」
「すまないんだが、この中古品を廃品業者に出しておいてくれ」
「はい」
見るとまだ動く、いや意識ははっきりしている・・・
その表情を見たとき、私はあいつの…炊飯器の顔を思い出してしまっていた・・・
「なぁ、まだうごけるよな?」
「…はい」
その顔がすがっていた
「じゃあ今すぐどこかへ逃げるんだ」
「…いいんですか?」
「あぁ、私がお店長にはうまく話しておくから」
「ありがとうございます」
人ごみのなかに消えていく
その後ろ姿を見たとき、私はなんだか不安になってしまっていた
帰宅
「…」
私は本日あったことを思い出していた
「おかえり、本日は遅かったわね」
「あぁ」
いろんな思いがかけめぐりすぎてそれ以上何もしゃべれずにいた
「ねえ、どうしたの」
「なんでもねえよ」
少し泣きそうになったのを隠すために顔を背ける・・・
「なんでもないってなによ!わたしが心配してるっていうのに!」
ちょっとした喧嘩になる
炊飯器があとかたずけを終える
しかし会話はない
部屋の中が本当に静かになる、炊飯器が来る前の頃のように
炊飯器が来る前まではこんなにも私の部屋は静かだったのか
「なぁ」
重苦しい空気を壊すため話しかけてみる
「なによっ」
怒ってる…
「私が悪かった、バイト先でちょっといろいろあったんだ」
「な、なによっ、そんなに簡単に謝っちゃって…その
・・わ、私もごめん…」
その困ったような顔を見た私はかわいいと思った
「もうひとつ言っていいか?」
「なによ」
「キスしていいか・・・」
「い、いきなりなによ!」
「だってこのあいだはそっちからしたじゃないか・・・」
「あ、あの時は」
「だったら私にだって権利くらいはあるはずだろ?」
「…」
「それとも、私のことは嫌いか?」
言ってしまった…
「え、ええと、好きだけど…」
炊飯器の口から発せられる「好き」の言葉
しかし、これは私がむりやりいわせたのも同じことだった
「ずるいよ、こんなこと言わせるなんて…」
目を閉じる炊飯器
そして私は 顔をちかづけた
「ちょっと、待って…」
「なんだよ」
「どきどきしてる…」
「私もだ」
心臓がどきどきいってるのがわかる
「ん…じゃあ、いいよ…」
もう一度目を閉じる炊飯器、その顔がすごく女の顔になってるのがわかる
ゆっくりと唇をあわせていく
・・・。
いつの間にか自分も目を閉じてしまっていた
ほんの少しの時間が長く感じられた
「んっ…」
声を漏らす炊飯器
顔を離して目をあける、そして炊飯器の顔をみつめる
すこし赤くなった顔がそこにはあった
「…」
だまっている炊飯器、やはりかわいい
思わず抱きしめてしまいそうになったが、それ以上はできなかった
休みの日、私たちは遊園地にいた
約束をかなえるためだ
「ねぇ、あれに乗ってみようよ」
「あぁ、いいよ」
はしゃぐ炊飯器、楽しめてもらえてうれしい
傍からみるとカップルのように見えるのだろうか
「おーい、こっちこっち」
「ちょっと待ってくれ」
そういえば炊飯器とこんな風に時間をとったことはなかった
「ねぇ、腕組して歩いてみよっか」
「え?」
「だって、あの人達もやってるでしょ」
カップルを指差す炊飯器
「あぁ、いいよ」
「えへへ~、どう?私と腕組する気分は?」
本日はやけに私にやさしい
一緒に観覧車にも乗った
「ねえ、あそこかな、私たちのアパート」
「そうだな」
その横顔をみつめる
機械だってみんなは言うかもしれないけど…
私は恋愛してるんだ…やっぱり…
帰り道
「本日は楽しかったね」
「あぁ、また連れてきてやるよ」
そういうと炊飯器はうつむいてしまった
「…また来れたらいいね」
その言葉の深い意味を私は知らなかった
次の日
「ただいま」
返事がない…
「いないのかー」
おかしいな、どこかへ出かけているのか
その時の私はそれを軽く考えていた
だが、その日炊飯器が家に帰ってくることはなかった
次の日
私はバイトをさぼった、一睡もしなかった
炊飯器が帰ってきてたらと思ったがそれはなかった
「やっぱりさがしにいこう」
あわててアパートを飛び出す私
「どこにいったんだよ」
あてもなく走り続ける、しかし見つからない
「はぁ、はぁ、はぁ、どこにいるんだ」
その時私はある場所を思い出した
そうだ、私はあそこで炊飯器を買ったんだ
あのお店で
必死になって走る私
「頼む、どこにもいかないでくれ…頼むよ」
炊飯器は?
いた!お店先に立っている
「どこいってたんだ!心配したんだぞ!」
「えっ…なんでここがわかったの?」
「だって、ここは私とお前が出会った場所じゃないか!」
「なんで、探しにきたの?」
「なんでって、お前が心配だからに決まってるじゃないか!
なぁ、なんでいきなりいなくなったりするんだ!」
「知らないの?」
「なにをだ?」
「私はもうすぐ使用できなくなるの…」
「な、なに馬鹿なこといってるんだよ!」
「私はもうすぐ動かなくなる、電化製品の法律が変わって
私にあう電池は製造禁止になったのよ…」
「そ、そんなまさか・・・」
「だから、私はもうあなたの前にはいられない」
「そんなこと言わないでくれ、一緒に家に帰るんだ」
手を伸ばしたがふりはらわれる、炊飯器がふるえていた
「だから、私のことは忘れて…」
炊飯器が震える声でそう続けた
「私は…「機械」なの…人間じゃない…」
そんな…
そんなこと言ったって…
私は恋愛をしてしまったんだ…
だから…
「好きだ…」
出てきた言葉はこれだった
「好きなんだ…」
一瞬のことが長く感じられた
黙ったままの炊飯器
そして
「私も…好き…」
初めて見た、涙を流すところを
機械なんかじゃない
私の愛する彼女…
彼女の口からも同じ言葉
互いにかけがいのない存在ということを知る
残された時間は僅か
「動かなくなる前に聞けてよかったわ…
私は機械だから、ずっと悩んでいたの…うれしい」
いつも私のそばでほほえんでくれた彼女が泣いている
ただ、私の言葉のために
「なに言ってるんだ…お前は私の恋愛人だ…」
手をにぎる、あたたかい…
「もう、なにも思い残すことはないわ…」
私に力なく寄りかかってくる
「…待ってくれ」
「なに?」
「ひとつ約束してほしい、次に私たちが生まれ変わったら…結婚しよう」
「う…ん」
彼女の目がふさがれていく
「ありがとう…」
それが彼女の最後の言葉だった
そして私はこうして今も暮らしている
泣きたくてどうしようもない時もあった
どれほど時を経ても彼女への思いは変わらない
今もあの約束を思い出す
『私たちが生まれ変わったら…結婚しよう』
『う…ん』
またいつか彼女に逢えたら…
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