初めて彼女に会ったのは内定式の時…同期だった…
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聡明を絵に書いたような人…学生時代に書いた論文か何かが賞を獲ったこともあるらしく期待の新人ということだった…
ただちょっと性格がきつめで変わった人でやることすべてパーフェクトだし自分のことは何も話さないので宇宙人ではないかとの噂もあった…
まあセクシィーと言えばセクシィーなんだけど洋服やおしゃれに気を遣わないようだったし凄く真面目だしお高く止まっていると言うより男嫌いみたいだった…近寄る男はいなかった…
おれも何かちょっと嫌いだった…
彼女とは偶然同じ部署に配属になった…
それまで出会ったどんな女の人とも違うのでからかって反応を楽しむようになった…
初めは凄く嫌がっていた彼女だったが半年も経つと馴れてきたのかその頃おれが結婚したので安心したのか少しずつ相手をしてくれるようになった…
その後少しだけ仲良しになって愚痴を言い合ったりするようにはなったが相変わらず自分のことは何も話さない…
休みの日に何をしているかとか家族のことはもちろん本人のことも例えば誕生日なども何年間か知らなかった…
ある日ある試験の申し込み書類の書き方を聞いたら自分の書類を持って来て見せてくれた…
そこに生年月日が書いてあった…何とその日が誕生日だった…
『今日はデートかな?」
などと言いつつとりあえず昼休みに食べたチョコエッグに入っていたカメを誕生日プレゼントと言って渡した…
爬虫類大好きと言って子供みたいに喜んでいたのが印象的だった…変わっているなあと思った…
確かに変わった人で今どき携帯は大嫌いとかで持っていなかった…
写真を撮られれるのも大嫌いだった…カメラ付き携帯で飲み会の時に撮影したら凄く怒って暫く口を利いてくれなかったこともあった…
無理やり一緒にプリクラを撮った時は悪用されると嫌だからと言ってシートごと全部持って行ってしまった…
彼女は頑張り屋だった…元々才能もあったし努力もするものだからどんどん出世して行った…
それに殆ど遊ぶこともなく仕事が終わると真っ直ぐ家に帰っていた…
『そんなにお金貯めてどうすんのー?」『お父さんの借金でも返ししてんの?」
などと言ってからかった…
その頃には彼女のことがとても好きになってしまっていた…
でもおれはもう子持ちなので表に出さないようにぐっと堪えていた…
ただ彼女の周りをうろちょろして愚痴の聞き役や遅くなった時のタクシー代わりをしていた…
でもプライベートな関係は一切無かったし変な噂にならないように気を配った…
同僚はおれは彼女の『ぽち」に見えると言っていた…自分も彼女の『ぽち」という立場が気に入っていた…
そんな関係が暫く続いた…彼女は相変わらず独身だった…
彼氏や恋人がいるかどうかは全然判らなかった…
ただ彼女はお守りのような小さな袋をいつもバックに着けていた…
何か聞いても秘密のお守りとしか教えてくれなかった…
彼女が仕事のトラブルで落ち込んでいた時彼女のデスクでそのお守りをギュッと握っていたのを見たことがあった…
だから勝手に『遠くにいる彼氏からもらったのかな?』などと思っていた…
ある日海外出張からの帰り成田で携帯の電源を入れた途端に同僚から電話があった…
彼女が亡くなったと言われた時全身の力が抜けた…耳の奥がキーンと鳴ったのを覚えている…
交通事故だった…
事故直後は意識もあり大したことはないと思われたらしいが内臓からの出血があり急変したとのことだった…
現実のこととは思えずになぜかあまり涙も出てこなかった…
職場の何人かで葬儀の手伝いをした…
その時初めて知ったのだが母子家庭だった…
お姉さんもいるが施設に入っているとこのことだった…
彼女が大黒柱として家族を支えていたのだ…
彼女を軽率にからかったりしたこと恥じた…
とても申し訳なくて気が狂いそうだった…
葬儀の後帰ろうとしていると彼女のお母さんに呼び止められた…
渡したい物があるから彼女の実家に後で一緒に来て欲しいと言われた…
『貸していた本のことかな?』と思いつつ彼女の母親と実家に向かった…
母親は道すがら
『彼女は大好きだった父親が出て行ってから男の人が嫌いになったこと』
『誰にも頼らないで自分の力で生きて行こうと誓ったこと』
『土日はあまり健康でない母親と施設の姉の世話をしていたこと』
を話してくれた…
自分の子供とは思えないほど頑張り屋だったと言っていた…
家に着くと彼女の部屋に案内された…
綺麗に片付いていたと言うより女性の部屋とは思えないほど何も無かった…
ただ専門書とノートが沢山あった…
母親は・・・
『彼女がいつもおれの話を楽しそうにしていたこと』
『おれのことが大好きだったけどおれの子供たちを自分のように悲しませることになるといけないと思い黙っていたこと』
『彼女が意識を失う直前におれに会いたいと言っていたこと』
を話してくれた…
机の隅におれと写ったプリクラが貼ってあった…声を出して泣いたのは大人になってから初めてだった…
帰る時彼女が亡くなった時に身に着けていたネックレスといつも持ち歩いていたお守りを形見にもらった…
『傍に置いてやって下さい」
と言われた…
ネックレスは母親が就職記念にあげた物だった…
ただお守りの方はどうやって手に入れたか判らないということで受け取るのはちょっと気が引けた…
でも彼女がとても大切そうににしていたのを知っていたので受け取ることにした…
お守りの中を開けてみようとも思ったがやめた…
それからすぐ転職をし一年後にようやく少し落ち着いた…
形見のお守りはいつも彼女がしていたように鞄に着けて持ち歩いていた…
先日職場の女の子が
『これ前から気になってたんですけど何が入ってるんですか?」
と言い鞄のお守りを開けてしまった…
止める間もなかった…
と言うよりその時にはもう中身を取り出していた…
彼女は突然
『何これー?』
と言って大笑いを始めた…
お守りの中にはチョコエッグのカメが入っていた…
おれはもう職場にいることも忘れただただただ泣き続けた…
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交通事故の怖さ
交通事故の加害者側の家族が一家心中をしようとした