クリスマスに願う小さな心「おとうさんのガンがなおるくすり」
クリスマスの数日前、我が家の6歳の娘がサンタさんへの手紙を書いて窓際にそっと置いていた。夫と「今年は何をお願いしているのかな？」と楽しみにしていた私は、キティちゃんの可愛い便箋をそっと開けてみた。そこには、思いもよらない願いが綴られていた。
「サンタさんへ おとうさんのガンがなおるくすりをください！ おねがいします」
一瞬言葉を失い、夫と顔を見合わせる。思わず笑ってしまいそうになる一方で、その幼い願いが胸に刺さって、気づけば私は目頭が熱くなっていた。こんなに小さな娘が、誰よりも一生懸命に父の健康を願っている。それを思うと自然と涙が溢れてしまった。
サンタさんがくれた「ガンがなおるおくすり」｜小さな希望の光
その夜、娘がぐっすり眠った後、夫と二人で「サンタさんからのプレゼント」を準備した。娘の大好きなプリキュアのキャラクター人形と、粉薬の袋に「ガンがなおるおくすり」と書いた特別な「薬」。これが、彼女にとっての魔法の薬になることを願いながら、そっと枕元に置いた。
翌朝、娘が目を覚ますと、プレゼントを見つけて歓喜の叫び声をあげた。その中でも、「ガンがなおるおくすり」を手にした娘は満面の笑みを浮かべ、弾むように父の元へと走り寄った。
「ねえ！サンタさんからお父さんのガンが治る薬もらったの！早く飲んでみて！」
夫は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑顔で薬を受け取り、まるで本当に魔法の薬を飲むかのように「お！体がだんだんと良くなってきたみたいだ」と演じてみせた。
娘はその様子に大喜びし、夫の腕を握りしめて「これでまたお父さんと山にハイキングに行ったり、動物園に行ったり、運動会にも一緒に行けるね！」と目を輝かせて語った。その純粋な笑顔と、言葉一つ一つが心に刺さり、夫の顔も次第に苦しそうに歪んでいった。
感動する話｜幼い願いと父の涙
それから夫は、声を押し殺すようにして「ぐっ…ぐうっ」と嗚咽をこらえて泣き出した。娘は「お薬の効き目で涙が出てるんだよね？」と、無邪気にその場を信じ切っている。私は目に涙が溢れるのをこらえきれず、必死に鍋から味噌汁を掬って飲み込み、どうにか泣かないようにした。
夫も娘に「そうだよ、薬のおかげで涙が出てるんだ」と笑顔を作っていたが、その声は震えていた。そして娘が、プリキュアの人形を持って友達の家に遊びに行くと、夫はポツリとつぶやいた。
「来年はお前がサンタさんだな……しっかり頼むぞ」
その言葉を聞いた途端、私の涙腺は完全に崩壊した。これまでずっと強がってきたけれど、もう涙を堪えることができなかった。お椀の味噌汁には、私の涙がいくつも落ちて混ざっていった。
泣きたい話｜「おとうさんが元気になる」ただそれだけの願い
小さな娘が書いたサンタさんへの手紙には、ただ「父が元気でいてほしい」という純粋で切実な願いが込められていた。彼女にとって、病気なんてどうやったら治るのかも分からない。だけど、サンタさんなら魔法の力で治せるかもしれない――そんな幼い夢を託して書いたのだ。
その願いは、娘にとっても私たち夫婦にとっても、何よりも大切な「奇跡」を祈るものだった。小さな手で握りしめた「ガンがなおるおくすり」の袋は、ただの粉薬でしかないけれど、娘の希望が込められた「家族の絆の象徴」だった。
悲しい話｜最後に夫が残した一言
夫はその後、闘病生活を続けながらも、娘に毎日元気な姿を見せようと頑張り続けた。しかし、彼の病状は徐々に進行し、年が明けてしばらくしてから、天国へと旅立ってしまった。
夫が亡くなった後、娘はその「ガンがなおるおくすり」の袋を大切に持ち続けている。そして、たまに私に「またサンタさんにお願いしたら、お父さんの病気も治るかな？」と尋ねてくる。その度に、私はただ娘を抱きしめ、夫の最期の言葉を思い出しながら、「お父さんはきっと、いつもそばで見守ってくれているよ」と伝えている。
かけがえのない家族の時間と、娘が込めたその願いは、私たちの心にいつまでも残り続けている。
