泣ける話|不器用な父の最後のピアノ演奏

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娘の結婚式で父が選んだ「カノン」

結婚式の日、花嫁の娘が会場を見渡すと、なんとそこにあるはずのないピアノの前に、不器用な手つきで座っている父の姿がありました。幼い頃から見てきた父は、音楽とは無縁で、ましてやピアノなど弾けるはずもありません。娘は少し不安そうな表情を浮かべながら、その場面を見つめていました。

父が奏で始めたのは、思い出の曲「パッヘルベルのカノン」。この曲は、幼い頃に亡き母が娘に教えてくれた大切な思い出の曲でした。母の思い出がたっぷり詰まったそのメロディが、ぎこちなくも一音一音、父の手で会場に響き渡ります。会場に集まったゲストたちは皆、驚きの表情と共に感動の涙を浮かべていました。

泣ける話|不器用な父が母に代わり伝えた愛

この日、娘は知らなかった父の一面を初めて目にしました。母が亡くなって以来、無口で不器用な父との間に感じていた小さな距離。しかし、今では思いもよらなかった形でその距離が少しずつ埋まっていくのがわかりました。父は、決して愛情を表に出すことが得意ではありませんでした。それでも、母がいなくなってから、いつも心の中で娘を支え続けていたのです。

結婚式が近づくにつれ、父は娘にどうしても何かを伝えたいという思いに駆られました。そして、何も言葉で伝えることができなかった不器用な父は、娘が幼い頃母とともに愛した「カノン」を演奏することを決意したのです。父が音楽教室に通い始めたのは、娘が結婚すると聞かされた直後からでした。

感動する話|一人で練習を重ねた父の努力

父のぎこちない手つきで始まった「カノン」は、決して完璧な演奏ではありませんでした。ところどころミスもあり、スムーズとは言えない部分もありました。しかし、父のその演奏には、娘に対するあふれるほどの愛情が込められていました。

映像で見た父の練習風景。誰にも打ち明けることなく、ただひたすら母の思い出をつなぎ、娘への感謝と祝福を届けたい一心で、父は一人で夜な夜な鍵盤に向き合っていたのです。音楽教室の先生も「これまで見たことがないくらい熱心な生徒」と語り、父の努力と愛情の深さを感じ取っていました。

結婚式という門出|溢れ出す父の想い

結婚式の場は、新郎新婦の幸せな門出を祝う場所であると同時に、長年のすれ違いが積み重なっていた家族の心をぐっと引き寄せる特別な瞬間でもありました。娘にとっては、母が生きていた頃の思い出を蘇らせる大切な日。そして、父にとってもまた、母が残してくれた愛情を娘へと引き継ぎ、今度は自分が娘を送り出す時が訪れたのです。

父は演奏を終え、娘に向かって「おめでとう」と一言、低い声で伝えました。普段口数が少なく、感情を顔に出すことの少ない父が、今日ばかりは少し目を赤くしていました。娘は、涙をこらえきれず、父の胸に飛び込み、ただ「ありがとう」と何度も繰り返すだけでした。

悲しい話と感動する話|母がいなくなっても続く絆

この日のことを、娘は一生忘れることができません。母がいなくなったあの日から、父が母の代わりに背負ってきたもの、そして今、結婚という形でその背負ってきた思いを娘に託したのだと感じました。不器用ながらも、母の記憶を娘へと繋げようとした父の行動に、娘は深く感謝し、心の中で母にも「ありがとう」と伝えました。

母がいなくなり、父との間に生まれた小さな溝を埋める人はもういませんでした。しかし、父が選んだ小さな一歩は、娘にとって何よりも心に響くものであり、今ではその距離は遠くではなく、かけがえのない絆となりました。

本当の「愛」を教えてくれた父

父の演奏した「カノン」は決して完璧なものではなかったけれど、その音色は娘の心に深く刻まれました。母が残してくれた思い出の曲が、父の手を通してもう一度蘇ったその瞬間、家族の愛と絆が再び強く結ばれました。娘にとって、父の最後の「カノン」は、これからもずっと心の中で響き続ける特別な曲として生き続けるでしょう。

そして、父が娘に見せた不器用な愛の形は、娘にとって何よりも尊く、これからの人生の指針として永遠に残るものになりました。

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