心優しき闘志|ステラヴェローチェの引退
2023年11月6日、名馬ステラヴェローチェの競走馬登録が抹消された。鮮烈なデビューから重賞での勝利、そして牡馬三冠戦での健闘…。その活躍は数えきれないほどのファンを魅了し、多くの人々の心に刻まれた。しかし4歳の春、彼の脚が悲鳴を上げた。右前脚の浅屈腱炎で、長い休養を余儀なくされ、懸命な治療とリハビリの日々が始まった。
馬房での穏やかな日々とスタッフの愛情
最後に彼に会えたのは、ラストランを控えた二日前だった。ステラヴェローチェは馬房でゆったりと過ごし、時折目を閉じてくつろぐ姿が見られた。レースのときの鋭い目つきとは対照的な、穏やかな表情だった。そんな彼を支えたのは、厩舎スタッフの山田助手だ。彼はステラヴェローチェの気持ちを第一に考え、扇風機を馬房に設置していた。「東京でもこれがあれば少しは落ち着けるかな」と、どんな場所でも愛馬がリラックスできるようにと細やかな心遣いを忘れなかった。
この扇風機は、暑さ対策だけではない。いつも通り、優しく彼のそばで風を送る。山田助手のそのさりげない配慮が、ただの機械ではなく、ステラヴェローチェにとって心の支えであった。
最後のレース|勝利よりも無事を祈って
復帰戦では常に脚元を気にし、無理のない調整を心がけた。札幌記念では過度な負担を避け、坂路調教と慎重なスケジュールで挑んだ。ファンたちは、痛みをこらえながらも力強く走り続ける姿に、胸が熱くなった。彼が見せた不屈の精神、どんな困難にも立ち向かう勇姿は多くの人に感動を与えた。復帰後の挑戦、大阪城ステークスの勝利、そして大阪杯での惜しい4着、全てが奇跡のような瞬間だった。
山田助手は最後のレース前夜、「無事に帰ってきてほしい」という一心で天に祈った。レース当日はあいにくの快晴で、馬場は高速。山田助手は不安そうな表情で「雨でも降ってくれれば…」とつぶやいた。それは重馬場が得意な彼への配慮でもあり、何よりも愛馬の安全を願う気持ちの表れだった。
不屈の精神とファンへの感謝|馬房に飾られた贈り物
ステラヴェローチェの馬房の壁には、多くのファンからの贈り物が飾られていた。子供が描いた絵や、手作りのぬいぐるみ、そして感謝の手紙…。それらは彼がどれだけ愛され、支えられてきたかを物語っている。どんな困難にも諦めず、ファンに力強い走りを見せ続けたステラヴェローチェに、多くの人が心からのエールを送っていた。ファンと彼との絆は、文字通り壁一面に広がり、ステラヴェローチェの力となっていた。
新しいステージへ|穏やかに過ごしてほしいと願う
約1年7か月の休養と幾多の試練を乗り越えて、ついに引退が決まった。これからは競走馬としてではなく、新しい場所で静かに暮らす日々が待っている。山田助手とファンたちは「穏やかに、健やかに過ごしてほしい」と祈っている。これからは戦いの場ではなく、広々とした牧場で風に身を委ね、自由に走り回れるだろう。
ステラヴェローチェ、ありがとう。君が見せてくれた力強さと優しさ、そして一途な走りは、私たちの心にいつまでも残り続ける。新しい日々でも、どうかその健やかな魂を忘れずに、またどこかでその優しい風に乗って駆け抜けてほしい。