シバとの出会いと約束|泣きたい話の始まり
それは中学2年生の時でした。田んぼ道を歩いていた時に、捨てられていた小さな子犬を見つけました。やせ細り、怯えたように震えているその姿を見て、私は迷わず家に連れて帰りました。雑種でしたが、柴犬にそっくりだったので、父が「シバ」と名付けてくれました。
シバは子犬の頃からとても元気で、私が学校から帰ってくるのを毎日楽しみに待っていました。寝る時も、起きる時も、いつもシバと一緒。ご飯も一緒に食べ、まるで兄弟のように過ごしていました。その時の私は、シバとの未来が永遠に続くと思っていたのです。「最後までお前の面倒を見るよ」と心の中で誓い、シバもまた私に寄り添ってくれました。
しかし、高校に上がる頃から、私は少しずつ変わっていきました。新しい仲間ができ、遊びに夢中になる日々が続き、家を留守にすることが増えていきました。
シバとの距離と後悔|悲しい話のクライマックス
シバは相変わらず私のことを見つめ、遊んでほしそうに飛びついてきましたが、私は「邪魔だ」と振り払うことが増えていきました。次第にシバは私に近づかなくなり、私が家に帰ってきても、尻尾を振って迎えることはなくなりました。世話はいつしか父や母に任せるようになり、シバとの絆は途切れたままでした。
そして、高校を中退し、家を出て遊び歩く日々が続きました。家に帰ることも少なくなり、シバの存在は私の中で薄れていったのです。そんなある日、携帯電話が鳴りました。母からの電話で、「シバが車にひかれてしまった」と言われました。近所の人が見つけて病院に連れて行ってくれたものの、獣医からは「もう助からない」と言われたそうです。
私は「なんだよ、あのバカ犬がそんな簡単に死ぬわけない」と、どこか他人事のように思っていました。それでも、「シバを家に連れて帰ってきたから、帰ってきなさい」と母が言うので、仕方なく家に戻ることにしました。
シバの最後の力|泣ける話の結び
玄関先には、いつも繋がれているはずのシバの姿はなく、家に入ると布団の中でぐったりしているシバが見えました。母が優しくシバの体を撫でていましたが、その目には涙が浮かんでいました。
「リードがちぎれて逃げ出したみたい。近所の人が、シバが青い原付を追いかけていたって教えてくれたわ。きっと、あんたのことを思い出したんやろね」と母が言いました。青い原付…それはまさに私が乗っていたものと同じ色でした。シバは、私だと思って必死に追いかけたのでしょう。
私はその言葉に愕然とし、膝が震えました。長い間、私はシバを無視し続けていたのに、それでもシバはずっと私を探し続けていたのです。私はシバの横に座り込み、震える手でその体を撫でました。すると、シバがかすかな力で体を持ち上げ、弱々しいながらも尻尾を振りました。その姿に、何かが弾けたように涙が溢れ出し、私は声をあげて泣きました。
「ごめんよ、シバ。俺があんたを無視していたのに、ずっと俺を見てくれてたんやな」と言って、シバの頭を撫で続けました。するとシバは私の手をペロペロと舐めてくれました。その舌先には血が混じっており、シバの命が消えかけていることを感じさせました。
母が涙ながらに、「いつも、あんたぐらいの年の男の子が家の前を通るたびに、シバはずっと見つめていたのよ」と言いました。その言葉は、さらに私の涙を誘いました。
「シバ、逝かないでくれ。俺たち、また一緒に遊べるんやろ?」と必死に語りかけました。シバはキュンキュンと小さな声を出し、私の膝に頭を乗せました。まるで「生きたい」と言っているようで、その姿に涙が止まりませんでした。
やがて、シバは静かに息を引き取りました。最後の瞬間まで、私を見つめ続けてくれたその瞳は、永遠に閉じられました。
シバが教えてくれた愛と後悔|感動する話の余韻
シバがいなくなってから、6年が経ちました。今でもシバの命日には、シバの大好きだったササミを玄関に供えています。時々、猫がつまみ食いしてしまいますが、優しいシバのことだから、きっと許しているのでしょう。
シバは私に多くのことを教えてくれました。大切なものを見失わないようにすること、どんな時でも愛情を持って接することの大切さを。私はシバの存在を通じて、自分の愚かさを知りました。そして同時に、彼がどれほど私を愛してくれていたのかを感じました。
「シバ、本当にありがとう。そしてごめんな。大好きだよ」と、心の中で何度も語りかけています。シバが私に与えてくれた愛は、今も私の心の中で生き続けています。
いつか私がこの世を去った時、シバにまた会える日が来るのでしょう。その時には、もう絶対にシバのそばを離れません。シバと共に生きることを約束したあの日の誓いを、今度こそ守り続けたいと思っています。